気になるあいつに聞いてほしい!

「ふぅん。分かったぞ・・・」
 岡木航平は、最近人気の推理小説を読みながらしきりにうなづいている。殺人事件、薬品、その手のものが使われる小説が大好きらしい。隣の男の子とは、一週間ですっかり仲良くなった。


  
 窓から暖かい風が吹き込んで、一緒に桜の花びらが飛んできた。
 
 「見て、おかき君。」


 「待て、今忙しい」

 
 右手で髪をぐしゃっと押さえて、本屋のカバーがついた文庫本を左手に持っている。左利きの人は今まで周りにいなかったから、とても新鮮で珍しい。


 おかき君、と呼んだのにも全く気付いていない。



 次々に流れ込む桜の花を机のはじにためて、じっと岡木君のほうを見た。
 


 くっきりした顔立ちに、高い身長。最近は消えつつある黒い学ラン。



 がっちりしているのは、ずっと柔道をしているからだそうだ。



 私にとって、柔道はちょっとずんぐりした冴えない体つき、なんていうイメージがあったけれど、間違っていた。




 「で、なに」

 
 窓際の私を、目を細めて眩しそうに見た。


 「や、桜のね、花がひらひらっと」


 「それか?・・・かしてみろや」


 岡木君は大きな手で花をわしづかみにして、前の席の男子の頭にかけた。

 
 ぎえぇ、と叫んで、振り向く。「おい、岡木こらぁ!」


 ぎゃははは、気持ちわりぃぞぉ、と岡木君は周りの男子とともに笑っている。


 
 春のやさしい風が、これじゃあ台無し。やれやれ。



 「高1とは思えないねぇ。ばかじゃん。」
 最近友達になったミサが笑った。

 でも私は、こんなに明るい春がたまらなくいとおしかった。





< 3 / 6 >

この作品をシェア

pagetop