気になるあいつに聞いてほしい!
「ふぅん。分かったぞ・・・」
岡木航平は、最近人気の推理小説を読みながらしきりにうなづいている。殺人事件、薬品、その手のものが使われる小説が大好きらしい。隣の男の子とは、一週間ですっかり仲良くなった。
窓から暖かい風が吹き込んで、一緒に桜の花びらが飛んできた。
「見て、おかき君。」
「待て、今忙しい」
右手で髪をぐしゃっと押さえて、本屋のカバーがついた文庫本を左手に持っている。左利きの人は今まで周りにいなかったから、とても新鮮で珍しい。
おかき君、と呼んだのにも全く気付いていない。
次々に流れ込む桜の花を机のはじにためて、じっと岡木君のほうを見た。
くっきりした顔立ちに、高い身長。最近は消えつつある黒い学ラン。
がっちりしているのは、ずっと柔道をしているからだそうだ。
私にとって、柔道はちょっとずんぐりした冴えない体つき、なんていうイメージがあったけれど、間違っていた。
「で、なに」
窓際の私を、目を細めて眩しそうに見た。
「や、桜のね、花がひらひらっと」
「それか?・・・かしてみろや」
岡木君は大きな手で花をわしづかみにして、前の席の男子の頭にかけた。
ぎえぇ、と叫んで、振り向く。「おい、岡木こらぁ!」
ぎゃははは、気持ちわりぃぞぉ、と岡木君は周りの男子とともに笑っている。
春のやさしい風が、これじゃあ台無し。やれやれ。
「高1とは思えないねぇ。ばかじゃん。」
最近友達になったミサが笑った。
でも私は、こんなに明るい春がたまらなくいとおしかった。