【完】二段ベッド
二段ベッド
「……今まで、ありがとね?」



 窓から入る街灯の光以外明かりはない、暗い部屋。


 僕の横たわる二段ベッドの、下の段から声が聞こえてきた。


 この部屋の明かりが消えて、もう二時間。僕が眠っていてはいけない…いや、大方眠っていると思ったのだろうか、彼女の声は控えめである。



「私ってば、勉強もできなければ家事も得意な訳じゃないし。……いつもいつも、迷惑ばかりかけて」



 彼女の話を聞きながら、くぐもった声を出して僕は、一つ寝返りを打つ。


 梅雨時期、じめじめとした空気のため、布団が暑苦しい。風邪をひくからと母は片づけてくれないのだが、僕からしたら有難迷惑だ。



「聞いてくれてるか分かんないんだけど…ごめんなさい」



 尻すぼまりな謝罪を聞いて、僕は気づく。


 その声は、控えめだとか、そんなではなく。泣いて、いるのだと。


 暗い、静かな部屋に、鼻をすする音だけが響く。僕はそれを、黙って聞いていた。


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