【完】二段ベッド
 僕は答えない。寝息程度の呼吸音を自然に響かせるように、気を付けて動かない。


 静かな時間が流れる。静かなだけでなく、穏やかだ。



「……まぁいいや。何話そうと思ってたか忘れちゃったけど、本当…ありがとう」



 振り出しに戻るのか…溜息とともに、今度こそ寝ようと、体勢を整えようと動く。


 その時、ベッドが音を立てて軋んだ。



「やっぱり」



 はっと気づいたように、下の彼女は、僕に言った。



「起きてるんでしょ?ねぇ、返事して?」



 震えた声でそう請う彼女に、僕は出方を考える。


 そうして何も言えずにいると、部屋は嗚咽と鼻をすする音で満ちた。



 ………本当に、手のかかる姉で。


 赤の他人と暮らすなんて、できるのか心底心配になる。


 そう言えばきっとまた拗ねて、何かあげればまた機嫌を戻して。


 純粋で、単純で。


< 3 / 4 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop