鬼と天使と少年と、

「駄目人間!しっかりしろ!」

「!」



倭草の口から紡がれた言葉に、俺は思わず硬直する。

あれ?その言葉、前にどこかで言われたような……



『こンの……駄目人間っ!お前がしっかりしなくてどうする!しっかりしろ!私はいつだってここにいるぞ!』



ああ、誰に言われたんだろうか。


思い出せない。


でも、その人は俺の大切な人だったような気がする。


頭を押さえてしゃがみ込む俺に、どうしたんだと倭草が駆け寄ってきた。



「佐雄!おい、どうしたんだよ!佐雄っ………」


「落ち着け。佐雄が壊れるだろ」


「おんやあ?十六夜よ、一体いつから人の心配をするようになったんだぇ?随分お前も丸くなったのぅ。かーっかっかっか!」


「別に。佐雄を壊すのは俺の役目だ」


「……相変わらず気色悪い性癖だぇ」



ドン引きな視線を送る爺ちゃんに、何食わぬ顔でそっぽを向く十六夜さん。

倭草は俺の背中をさすってくれている。


ああもう、頭がごちゃごちゃしていて、気持ち悪い………



「佐雄、忘れたものを、とうの昔のことを、無理に思いだそうとせんでええぞぃ。お前はわしの孫だぇ?

いつもみたいに能天気にダラダラしとる方がお前らしいわい」



その言葉に、俺は冷水をかぶったかのように思考が一瞬クリアになった。


いつもの、俺らしく……


………ああ、そっか。


“俺らしく”、馬鹿でかい魔力でいっちょやってみますか。

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