鬼と天使と少年と、
俺は立ち上がると、背後で十六夜さんと睨みあっていた爺ちゃんに視線を向ける。
そんな俺に、爺ちゃんはニッと笑って言った。
「いい目だぇ」
ま、容姿はわしに敵わんがのぅ。
かかかっ、と笑う爺ちゃんに、俺も笑みを溢していつもの調子になる。
「あーあ、どこで遺伝子が途切れたんだろね。俺だってモテたかったさ!くうっ、だけども残念。俺は平凡男の駄目人間なんだぜー!
ははっ、……ね、爺ちゃん。
今回は、見逃してよね。教師としてさあ、かわいーい教え子の頼みきいてよ、ね?」
「かっかっか!お前も悪くなったのぅ。ま、そこはわしに似て好奇心旺盛といったとこだぇ」
ニヤリ、互いに笑い合う俺たちを見て、倭草が不審気に眉をひそめた。
「佐雄?一体何す……って、お、おい!お前まさかっ……」
「そのまさか」
懐から出したバタフライナイフに、倭草が青ざめる。
血を媒介として使われる魔法。
それが【黒魔術】だ。
ん、まあ【呪言】も危険レベル達したら多量の血が必要になるんだけどね。
今回は指先をちょっぴり切るだけで…………っとと、思ったより血が溢れてきちゃったね、こりゃ。
ま、多いにこしたことはない。
俺はそのまま床に血を垂らし、呪文を呟いた。
「【вввβξθθ】【вввофа】【вввô£€〃】(とばせ、もやせ、消し飛べ)」
ジクジクと床に魔法陣ができてゆく。
ふつー、魔法陣ってのは自分で書かなきゃなんだけど、こうやって血を媒介にすると勝手に描いてくれるんだ。
ほうら、もう出来てきた。