鬼と天使と少年と、

しかし俺の切な願いは届かず。佐雄は寝息をたてて眠るばかり。

ああでも、佐雄はさっきまで苦しんでたんだもんな。もう少し寝かせてや…「むにゃ…ふかふか毛布…へへ」………前言撤回。



「くだらねえ夢みてねえで、さっさと起きやがれこの駄目人間ッ!」

「ぎゃふッ?!」



うへへとだらしない寝顔を見せられたら自然と殺意も湧く。

こんにゃろう、この状況で苦しんでるっつーのになあーに笑ってやがんだバカ佐雄。


少し強めに、グースカ寝ていた佐雄の腹に拳を落とせば一瞬で奴は目を覚ました。



「イテテ……、え、なに?なんか低反発マクラにすんごい反発された衝撃」


「例えがお前らしくてツッコム気にもならんわ」



素で言っているのか、真面目な顔をしてそんなことを呟く佐雄。


寝起きのせいか些か矛盾したことを口走っていたが、俺としては駄目人間がいつもと変わらぬ元気な様子で安心した。


そう、いつも通り。
いつも通りでいいんだよ、お前は。



「わ、倭草わぐさっ!なんか爺ちゃんと十六夜さんが喧嘩してんだけどっ。え、何コレちょう恐い」


「ッハ、ほんと恐かったっつーの」



ほんと、恐かった。

お前(佐雄)が死んじゃうんじゃないかと思って。

ほんと、恐くて恐くて。



「佐雄、お前から離れていかねえから。お前もぜってぇ俺たちから離れんじゃねえぞ」



大切な友人を失うくれえなら、俺は……



「爺ちゃんっ、十六夜さんっ!いい加減にしてくださいっ。雨乱探しに行きますよ」


「チッ、かわいーい孫のため、今日はもうやめだぞぃ。若造にわしは負けんがのぅ」


「俺の大事な玩具のためだ。あんたから逃げるわけじゃない。ま、俺の方が強いけど」


「はぁあ?どーの口がほざいとるんだぇ?わしの方が百倍強いわぃ」


「はぁあ?あんたが強いのは欲だけだろ?老いぼれは隠居してろ」


「ふたりともっ!」



いつまでも、こうして当たり前に傍にいられればいいのにな。


その呟きは、佐雄の耳に届くことなく。


「ほらっ、倭草いくぞ!」


心地好い温かな声に掻き消された。

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