鬼と天使と少年と、


ア レ ハ ワ ス レ ロ


何度も何度も、心の奥に根づいた微かな負(ふ)。それは気づかれてはいけない。



「でさ、俺さっきまでの記憶ないんだけど、何してたんだっけ」


「裸踊りしてた」

「嘘っ?!」

「嘘」

「なっ……」



一時(いっとき)。一時だけでいい。

少しでも長くこの幸せが続けばいい。



「かかっ、佐雄もいい友人を持ったのぅ。なあ、十六夜………、十六夜?どうしたんだぇ」


「………。いや」



闇に喰われる前に。闇に捕まる前に。

もう少しだけ、少しだけ。


隣で拗ねながらもやや笑みを浮かべる佐雄。ああ、離れたくない離したくない。


離れたくない、離れちゃダメだ。離れない離さない離れられない。

離れなきゃ離れなきゃ。依存してしまう、その前に。離れなきゃ、離れなきゃ。



「みぃーつけた」



ニィイと笑う闇喰いに俺が気づくことはなかった。


やっと見つけたんだ。ようやく見つけたんだ。佐雄は、大切な(友)人。



「あんたの闇も、なかなかどうしてウマそうだ。くくっ、メイン(佐雄)の前に前菜(倭草)からいこうか」



やっと掴んだ幸せは、目を離した瞬間に喰らい尽くされる。


ニヒルに笑う十六夜さんに、俺たち『餌』が気づくことはなかった。

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