鬼と天使と少年と、
さて、倭草チーム一行は雨乱探しをしつつも、今回の件について互いのもつ情報を交換していた。
「まず、俺と強欲がここに入り込んだのは、うちのファミリーが少なからず関わっていることに気づいたからだ。…強欲と一緒に行動してたのはあくまで偶然であって、俺は不本意だから」
「もちろんわかってますわ!十六夜サマがあんな欲深いジジィに自ら近づくわけ、ありませんもの。
わたくしだって近づきたくありませんわ」
腕を組んで忌々しそうに目をつりあげる姫と、いかにも不機嫌な十六夜。
この雰囲気のなか、ひっじょーに気まずそうに倭草は恐る恐る手をあげ、今までずっと感じていた疑問を吐き出した。
「えっと、なんつーか、今更で申し訳ないんスけど……、
【強欲】って、誰っスか?」
「……。」「……。」
「「今更?」」
「すみません…」
アリエナイ!と目を見開く二人に、なんだか倭草は居たたまれない気持ちとなる。
佐雄たちと一緒に雨乱探しをしていた時も【強欲】という名が出た。
しかし倭草にはいまいち該当する人物がピンとこないのだ。
元より、雨乱にだけでなく佐雄にまで頭脳は劣ってしまい、体力面でばかり優(まさ)っていた。
いわゆる、筋肉馬鹿か?
しかし倭草は鬼の子であり、筋肉ムッキムキというわけではない。
細マッチョというやつだ。
話を戻そう。
「強欲強欲って連呼されても、よくわかんねーんですよね。一応、中等部でのあだ名も俺ら合わせて【阿呆トリオ】って呼ばれてたくらしだし」
「阿呆トリオ?」
「『俺ら』ってことはまさか…」
「まあ、雨乱と佐雄だっつーことも見当つくっしょ、先輩さま方?」
小馬鹿にした言い方にカチンとくる二人であったが、どうやら倭草は生粋の阿呆であり悪気もないようだ。
なんとか反論も飲み込んだ。
「で、頭脳的に阿呆っつーのが俺のこと。テスト後に俺ひとりだけ面接受けたこともあったな。センセーに『お前、将来大丈夫か?』なーんて言われちまって。
ま、なんとかなるっしょ」
なはは。
能天気に笑う倭草に、姫と十六夜は同時に思った。
ああ、こいつ、阿呆だわ。
会って間もない二人にこう思われるとは、倭草もそろそろ末期なのだろうか。
今も明るく笑う倭草に、二人は一抹の不安を感じたのだった。