鬼と天使と少年と、

そんな二人の思いに気づかない倭草は頭を掻きながら話を続ける。


「それで、なんつーか、佐雄も見た通り阿呆な感じっスね。駄目人間だし、鈍感だし、無駄に魔力もってっし。
…でも、そんな佐雄だからこそ、俺らはあいつに惹かれたんだよなあ」

「……、ふぅん。どうやら佐雄の片想いでもないようだな」

「へ?」


そりゃ一体どういう意味で?

十六夜の意味深な発言に首をかしげる倭草。姫も同じく首をかしげた。

きょとんとする二人に十六夜は微苦笑し、流し目で倭草を見つめた。


「あんたたち飛び級生が高等部にきた初日。あの日、俺と佐雄は顔を合わせた。
【出雲】(いずも)…、っと。鬼子は出雲を知らないか。まあ、俺の仲間と佐雄が魔法勝負していてな。偶然そこに立ち寄ったんだ。
面白い予感がしたから、ちょっと探って佐雄の闇につけこんだ。

驚いたね、佐雄の顔は涙やら鼻水でぐしゃぐしゃ。闇に触れた程度で、あそこまで堕ちるなんて思わなかった。
同時に、佐雄が欲しくなった」


ぴくっ

十六夜が『欲しい』と口にした途端、姫の体が震えた。恐らく嫉妬しているのだろう。

そして傍らでは倭草も目をひん剥いていた。この事実も知らなかった倭草にとって、よほど衝撃だったようだ。


二人の予想通りの反応を見ながら、十六夜は口角を上げて話を続ける。


「それから今日この日まで、ずっと勧誘し続けた。そして、佐雄の弱点を見つけた」

「弱点…?」


今度は倭草の体が反応する。


「そう、弱点。ずっと見てるだけで自然と気づいた。わかりやすいにも程があるってね。
ちょっと、嫉妬、したかな」

「……。」

「鬼子?」


反応しなくなった倭草の顔を覗きこむ十六夜。なんと、倭草の顔は青褪めていた。


「(知らなかった…、わかんなかった。ずっと一緒にいたのに、俺と佐雄と雨乱で、ずっと、一緒にいたのにっ…)」


寂しさと、そしてもどかしさ。
倭草自身も気づいていない『嫉妬』の感情。

それらが渦巻く心中のなか、十六夜はふと顎に手をおいて考えた。


「(もしかして鬼子は気づいてないのか? 自分自身が、大切な友人が佐雄にとっての弱点だということに。
そして恐らくあの天使も……)」


なるほど。
人知れず十六夜は溜め息をつく。

互いが互いにすれちがっている。
これじゃ本当に【阿呆トリオ】だな。

ひっそりと、十六夜は苦笑したのだった。
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