鬼と天使と少年と、
佐雄が友人を大切にしているように。
鬼と天使もまたあの少年を想っている。
互いが互いを必要とし、それでもどこかへ行ってしまうんじゃないかと一抹の不安を覚える様はまるで。
「(佐雄も鬼子も、あの天使も阿呆だな。飛び級生といえど、やはりまだ中坊か)」
依存している。
まだ自分たちよりも幼いながら、異様な執着を見せる少年たち、【阿呆トリオ】に十六夜が興味をもった瞬間であった。
一方その傍らで。
「(十六夜サマがあのボンクラを…?なぜわたくしではなく佐雄を必要としていますの…?わたくしでは役不足?
…ッツ、ずるい、ずるいですわッ!
わたくしだって、わたくしだって十六夜サマに…ッ)」
姫もまた、異様な執着を見せていた。
ぎりりと拳を固く握りしめ、今この場にはいない少年へと嫉妬する。
思えばあの時。
【炎葉】(えんよう)と姫が顔を会わせたとき。
姫は彼を【強欲】と呼び、
彼は姫を【嫉妬】と呼んだ。
一体、この繋がりは何なのだろうか。
ファミリーと炎葉の間にある深い溝とはなんなのか。
【阿呆トリオ】が互いに依存するわけとは。
この事件の黒幕は一体…。
そして、
雨乱は一体どこにいるのか。
今、最も最優先すべき問題である。
消えた天使はさて何処(いずこ)?
「…なあ、鬼子」
ふと、十六夜が口を開く。
その表情は何かに気づいたようで…。
「なんスか」
十六夜への嫉妬により、思わずぶっきらぼうに返事をしてしまった倭草。
姫には睨まれたが、十六夜本人は気にしていないようだ。
いや、それどころではないような。
切羽詰まった表情を見せる十六夜に、自然と倭草の体も強(こわ)ばる。
十六夜の目の先を追えば、そこには思いもよらぬ人物がいた。
「! け、剣牙っ?!」
「なんでここにっ…?!」
「……。」
「…姫、ごめんなさい。俺、もう…限界かもしれません」
意味深な言葉に、首をかしげる余裕もなく。
剣牙が持っていた剣がこちらに降り下ろされる。
咄嗟にそれを避けるも、剣牙の攻撃は止まらなかった。
どういうことだと声を張り上げる姫。
考えを巡らし口を閉ざす十六夜。
一体なにが起こっているのか混乱している倭草。
怯えるように剣を振るう剣牙を前に、三人はただひたすらに避けることしかできなかった。
ただ、何が起こっているのか。
それは、誰にも、わからない。