鬼と天使と少年と、

堪えきれなくなった涙が、ついに重力に従って真下に落ちた。

ポタ、ポタ。とめどなく溢れる涙。

落ちた先には、今より幼い、俺の知らないあどけない雨乱の顔。

白くてふにゃりとしたその綺麗な頬が、俺の汚れた涙で濡れてゆく。


悲しさとかよりも、申し訳なさが段々と込み上げてきて。
そんな俺自身に、今度は情けなさが込み上げてくる。


「…なに、やってんだろ、俺」


俺なんかが泣いていいわけないだろボケ!俺のアホ!ドジ!マヌケ!どーしよーもない駄目人間!

ずびずびと鼻水をすすって、オモチャを持っている右手の甲でごしごしと目をこする。

カランコロン、コロカラン

こする度に音のなるオモチャ。うるさい。オモチャは何も悪くないんだけど、こうも鳴られるとイラついてキレちゃいそうだ。

てか、まじでうるさいんだケド。


「ん…、にいちゃ…?」


案の定、このうるささのせいでちびっこ雨乱は目を覚ました。


「あ、ごめ…。ごめん、うるさかったよね?よしよし、まだ寝てていいから…「泣いてりゅの?」

「え、あ…」

「にいちゃ、泣いてりゅよ?」


ポタ。また涙が一滴、ちびっこ雨乱の頬を濡らした。

「ごめ…ん」

絞り出した声は、なんとも情けない涙声で。そう答えたにも関わらず、涙はぜんっぜん止まってくれなくて。


「情けない兄ちゃんで、ごめんなあ…。ぐすっ…、ほんと、すぐ、止めるから…」


両手の甲でごしごし目をこする。こすってこすって、痛いくらい。

右手のオモチャも変わらずカランコロン、カランコロン、鳴り続けている。


っくそ、なんで止まんないんだよ俺の涙っ。泣いてる場合じゃないんだって。もうっ、もうっ…!

そのとき、うつむく俺の頭に、ちいさな手が触れた。


「っ、え…?」

「なでなで。にいちゃ、泣いていーよ。いっぱい泣いて」

「なん…」

「よしよし。いい子いい子。にいちゃはイーコ」

「……。」


ふにゃりと笑って俺の頭を撫でるちびっこ雨乱。おかげでまた、泣きそうになる。

なんて情けない。

「ごめ…」

言いかけて、止めた。

違う。違うよなあ。
そんな言葉じゃないよね。


「…ありがとう、雨乱」

「えへへ…」


抱き締めた温もりは、心地よかった。

涙は全然止まってくれなかったけど、ちびっこ雨乱の言う通り、今度は我慢せずにたくさん泣いた。

俺に抱き締められ、首筋に顔をうめられたちびっこ雨乱は、少し、くすぐったそうに身じろいでいた。

この小さくて温かな存在が、なにより嬉しかった。
ありがとう、雨乱。
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