鬼と天使と少年と、
「いやだっ、どこにもっ、どこにもいかにゃいでっ…」
「え、う、うら、ん?」
「いやだっ、いやだいやだいいやだいいやだだいただいやだいやだいやだいやだいやだいやいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだッ!!」
泣き叫び、何もかも拒絶するように耳をふさぐ雨乱はくしゃりと顔を歪める。
『どこにもいかないで』
それは無理な話だ。
俺の探してる雨乱にそう言われれば話は別だけど。
だけど俺は、いつまでもここにとどまれるワケじゃない。
「雨乱、聞いて。俺はここにずっといれない。俺を待ってる人がいるから、だから、」
「っ、…じゃあ、いらにゃいっ…」
「え?」
「おれに優しくしてくれないにいちゃなんかいらないっ、いらないいらないっ、どこかに消えちゃえっ!
おれといっしょにいてくれないにいちゃなんか、死んじゃえッ!!」
ぱ り ん
どこかでそう、何かが砕けた。
それが何なのかすぐにはわからなかったけど、ずぐりとした痛みに、目の前に広がる赤色が。
嫌でも、鮮明にその存在を主張する。
目が潰されたんだ、と。
割れた窓なんだかオモチャなんだかの破片が見事誠に俺の眼球へクリティカルヒット。
あまりにスッパリと綺麗に潰された、というか眼球と肉が繋がってる部分が切られたもんだから、感覚もない。
一瞬のことで麻痺したのか。
痛みも、思考も。
ただ残った目で見てわかるのは、泣き叫んでもうどうにもならないちびっこ雨乱の歪んだ顔と。
ぐにゃりと歪んでいく空間だけで。
目から流れ落ちる眼球と血液を左目でとらえながら、ふと冷静に脳は動く。
あれ、この部屋に出口なんかねーな。
ちびっこ雨乱ってどうやってこの部屋を出入りしてたんだろう。
もしかして。
閉じ込められてたんかな。って。
それはあくまでも冷静に、けれど現実逃避でもある見解を最後に。
俺の意識はそこでプッツリと途絶えた。
閉じられる左目で捕らえたのは、
何故かこちらを見て笑う、ちびっこ雨乱の姿だった。