鬼と天使と少年と、



何かが落ちる音がした。

それが鮮明に聞こえたのはきっと、私の目が閉ざされているから。


「う…、あ」


呻くような声と、ずりずりと這いずるような音。

恐怖

その二文字が脳内に浮かびあがり、すぐに悟った。


「(ああ、もう。私は殺されてしまうんですね…)」


それも当然か。
何せ私は…。



「雨、らん…?」

「え、」



大好きな声がスッと耳に入り込んだ。

思わず顔を上げるものの、目隠しをされているのだから意味はない。

けれど、どうしてもその姿を確認…とまではいかくなくとも、せめてもっとその声が聞きたくなったから。


拘束された腕を無理矢理動かし、出来る限り体を前に出す。上半身しか動かなかったけど、それでもいい。


「うら…、どこ…?」

「っあ…!」


私の大好きな、大好きな友人の声を。

どうかせめて聞かせてください。



「っ佐雄……!」



これが最期になるかもしれないから。


(死ぬ前に一度でいいから聞かせてよ。私の大好きな、大切な彼の声を)


幻聴でもいいから。

どうか、どうか。
聞かせておくれ。
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