鬼と天使と少年と、



どうやらまた別空間に飛ばされたらしい俺は、無慈悲に冷たい床へとその体を叩きつけられた。

い、痛いってこれっ…!

ジーンとくる痛みにしばし悶えながら、今度はどこに飛ばされたのか五感を使って探りだす。


まず、視覚はダメ。
さっき目を潰されたからね。痛いし、もう片方の目はぼやけるし。

で、口もアテになんないでしょ。
(床を舐めろと…?)

触覚は冷たくて固いってことしかわかんない。十分な情報だけどね。

んでんで、嗅覚。
湿気のムワムワした臭いがやばいのなんのって。カビ臭いし。空気冷たいから鼻の奥ツンとするし。

最後に聴覚。
よーく耳を澄ませば、ぴちょん、ぽちゃん、と水の落ちる音がする。

そして、微かに呼吸する音が。


「雨、らん…?」


気づけば、口がそう勝手に動いていた。この空間に飛ばされたということは、偽であれ真であれ『雨乱』がいるということだ。

なら、この呼吸ももしかしたら…。


そう思っていると、「え、」という驚くような声が返ってきた。

それは聞きなれた、けれどあまりに弱々しい声色だったから。


「うら…、どこ…?」

「っあ…!」


声をかければ短いけれど返事(だと思われる言葉)が返ってくる。

そしてジャラジャラと重そうな音も耳に入ってきた。

これは鎖の音…?
だとしたら、この雨乱(仮)は拘束されてるってこと…?!

そんなっ…嘘だろ!


なんとか雨乱(仮)を助け出そうと身をよじる。けれど、なかなか体は思うように動いてはくれない。

もどかしく思う間にも、相手側からは尚も鎖の音が聞こえてくる。どうやら相手も何かしら焦ってはいるようだ。

そうこうしている内に、次の瞬間、体中に電撃が走ったような感覚を覚えさせられた。


「っ佐雄……!」

「……!」


それは、探し求めていたはずの、悲しく優しい天使の声だったから。
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