鬼と天使と少年と、

＊


ごりゅっ、とあまりに聞き慣れない音が耳に入る。

しかしその存在は嫌というほど俺に主張をしてきた。


「ッツ、ああっ…！」

「くっくっ…、我は貴様のその苦しむ顔が好きだぞ。ほれ、もっとよく見せい」

「あ、ああッ、！」

「佐雄っ…！」


雨乱の悲痛に満ちた小さな声が頭に響く。

それもそうだろう。何故なら床に突っ伏している俺の腕を、この銀髪イミフ男はあらぬ方向へ曲げているのだから。

しかもそれで楽しんでるって…。
この銀髪野郎っ、なんて悪趣味なんだ！


「ッあああああぁあぁああっ！！」

「ほうれ、ほうれ。体の自由がきかんだろう？貴様の体はもはや、我のもの同然だしの。はっはっは！」

「っあ、こっの…変態ッ…！」

「変態？我が？…ぶくくッ、なーにを言うておるのだ！
貴様とて飼い犬を愛でるだろうに。それも、犬の意思関係なく体を撫で回して。それと同じだ。

我は、貴様を愛でておるのだぞ？」


「ッツ……」

「くくっ、そうだ、その顔だ！」


ああ、そそるのう…。ぺろり、舌なめずりをしてそう呟き見下ろしてくる銀ぱ…、いや、変態男。

き、きっっしょッ！！


かろうじて、やっと見えるようになった左目で捕らえた気持ちの悪い表情にゾッと背筋が凍る。

あ、あんた俺と違ってイケメソなんだからんな顔すんなってば！
なんともったいなげふんごっふん。


……と、とにかくっ。


「俺の上に乗るな！ていうか手ぇ離せっ…イッテー！」

「いい声だ」


だからキモいんだよあんたッ！

思わず漏れそうになる声を飲み込み、必死の形相で馬乗りになる変態男をキッと睨む。

く、くそっ。
なんでどいつもこいつも美形なんだ！

十六夜さんといい出雲といい、この変態男といいっ…。

みんな残念なくせに！残念イケメンとかなんだよ知るかよ俺にその美をよこせやコンチクショー！