鬼と天使と少年と、
「っぅ……なん、で……いや、いやだ、俺は、ちがう、そんな、いや、ふたり、いや、まもろうって、だから、だか、ら……っ」



気づくと俺は廊下に力なく座り込んでいて、こんな醜い自分が嫌で顔を隠すように両手で顔を覆った。


だけど指の隙間から俺に囁くこの声は、



「深い闇だな」


「十六夜、さん……?」



俺から闇を求めている。


こんなに醜い自分を

こんなに汚い自分を

こんなに愚かな自分を


そらすことなく優しい目で
俺を見つめてくるこの人は



「っ、なんで…なんで……っ。なんで友人のこと、知ってんですかあっ…」



泣き泣きで崩れそうな、もしかすると既に崩れている俺の拙い言葉にさえ、十六夜さんは優しく笑うんだ。



「俺は闇が好きだから。深い闇が、俺の好物なんだよ」

だから、


そう続けて俺を見据える十六夜さんは、腰を下ろして俺と視線を合わせてくる。


紫眼から決して目のそらすことの出来ない、圧倒的な存在感。


口の動きさえも、俺は固まってただ見つめることしか出来なかった。



「アンタが欲しい」



闇に囚われてはいけない。


闇に囚われるということは



「え……?」



ファミリーに自由を奪われるということなのだから。

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