鬼と天使と少年と、
固まって動けない俺に手を伸ばす十六夜さん。


その手が俺の頬に触れる前、俺はやっと我に返り十六夜さんから離れた。



「逃げるなよ」


「いいいいいやっ、ちょ待…!つかっ、『欲しい』って何ですか『欲しい』って!」


「そのまんまの意味だけど」


「はぁあ?」



捉えようによっては変態発言なんだけどっ。


ひきつる俺に十六夜さんはフッと笑い、視線を斜め後ろに向けた。



「今日はここまでか……。まあいいや。なあ、アンタ」


「え、あ、はいっ?」


「名前、なんてーの?」


「えと……【佐雄】(さお)ですけど…」


「そっか」


よろしく、佐雄。

と言って立ち上がり、俺の頭をポンポンと軽く触ってくる十六夜さんは、そのまま俺の横を通りすぎて行った。



「あ、そうそう」

「?」



まだ何か言いたいことがあるらしく、十六夜さんは俺の方を振り返り、なんとも嬉しくない言葉を口にした。



「アンタ、今日から俺の玩具な」


「………は?」



俺の顔はたいそう間抜けだったろう。

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