アンバートリップ
「ただいま」
疲れ切った母が玄関を跨いだ時には、私はリビングでくつろぎ、ビスケットを齧りつつオレンジジュースを飲んでいた。
「結奈! 靴はちゃんと揃えなさいって何度も言ってるでしょう。宿題はやったの?」
「これ食べ終わったらやる」
不思議なことに、母の小言も珀との電話の後ならば、受け流すことが出来た。
(次の秘密の電話まで、あと二十三時間だ)
その頃の私は、珀との電話のためだけに生きていた。