アンバートリップ
「物語?」
既に魅入られかけている私は、ぽうっと繰り返す。
珀とは違うけれど、本当に綺麗な色。
「思い出と言う方が、分かりやすいでしょうか? その人にとって、最も印象的な思い出が、物語となって見えるのです。物語は、幸せなものばかりではなく、結奈様のように、蓋をして鍵をかけたくなるような、辛く悲しい物もございます。しかし、その辛く悲しい物語も、その人そのものなのです。私はその物語を通して、その人を知ります。それが、このカフェでマスターをするには重要なのです。ですから結奈様の物語も、この山の入り口からずっと拝見しておりました」
「私の……物語」
「結奈様の、ご家族の物語です」
それが私の全てなら、私はろくな人間じゃない。
成長し、恋もして、結婚も目前なのに、私はまだ、過去に囚われているのだろうか?
「人の思い出が見えるなんて、不思議ね」
そう呟いて、ふとカフェの名前が「やまがみ」であったことを思い出した。
「もしかして、あなたが山神様なの?」