アンバートリップ
何の感触も無い。手は、珀をすり抜け宙を切る。
「珀、あんた……幽霊なの?」
優しい笑顔を向けたまま、珀は何も言ってくれない。
「珀? どうして何も喋らないの?」
「……」
「珀? ねえ」
再び手を伸ばそうとした私を、やまがみさんが優しく制止する。
「結奈様、それは珀様ご本人ではありません」
「え?」
訳が分からず、カウンターを振り返る。
やまがみさんは、申し訳なさそうに長いまつげを伏せた。
「結奈様がご覧になっているのは、たった今お召し上がりになった、ドリンクの余韻なのです」