アンバートリップ
脇に座る女性が、ふいに私の名前を呼んだ。思わずそちらに目を向け、息を呑む。
椅子に腰かけていたのは、年老いた母だった。
私の知っている彼女とは、あまりにもかけ離れたやつれきった姿。
母は、まるで老婆のようだった。
二カ月に一度、美容室でカットとカラーを欠かさなかったこげ茶色のロングヘアは、自分でやったのか、肩のちょっと上辺りでパツンと切れていた。
髪色は本来の黒に戻り、相当量の白髪が混じっている。
着古したジーンズ姿で、Tシャツから伸びた細い腕には青い血管が浮かび、幾つもの茶色いシミができている。
毎日欠かさず、念入りに高級クリームを擦りこんでいたはずの目元さえ、影のようなクマが広がり、目尻もだらしなく垂れ下がっていた。
鼻から唇にかけて伸びる深い二本のしわが、彼女をより老けさせているようだった。
「?」
それなのに、母は以前より穏やかで優しい雰囲気があった。
「さあ、今朝の新聞を読みましょうか」