アンバートリップ
トートバッグから、折りたたんだ新聞紙を取り出し、ガサガサ音を立ててそれを開く。
「ええと。眼鏡はどこに置いたかしらね」
眼鏡? 母は視力が良いはずなのに?
彼女が探し物を始めた戸棚には、見たこともない教科書がずらりと並んでいる。
数学Ⅱ、高校生物、日本史B、古典Ⅰ……百科事典。
「ああ、あったわ。私ったら、昨日、この雑誌の上に置きっぱなしで帰ったのね。全く、いつまでたっても、整理整頓が苦手なのよね。情けないわ」
母の屈んだ先で、女性向け雑誌がこんもり山積みになっていた。
「そうだったわ。昨日、この雑誌の途中だったのね。結奈も気になるわよね。朝刊の前に、こっちを読みましょうね。ええと、確か占いの途中からだったわ。四月まで終わっているから……五月生まれのあなたは」
母の朗読が始まる。
(これって)