アンバートリップ
目を開く。
戸棚に入りきれず、窓の桟にまで積まれた分厚い参考書や教科書類。
あれは、私のための本だ。
表紙を見るのは初めて。でも、私は中身を知っている。
それは、母が日々、こうして全てを一語一句漏らさず、朗読していたからだった。
「お待ちかねの十月。結奈と珀の誕生月。十月生まれのあなたは、これまでにないほど、出会い運が絶好調。積極的に行動を起こすことで、思いがけない人との再会や、この先、あなたにとって大親友になり得る人との出会いが待っていそう。また、犬猿の中と思っていた身近な人物との和解の予感も。ただし、一歩選択を間違えると、真逆の結果が待ち受けているので気を付けて。ラッキーアイテムは、山、ブーツ、猿……ですって。十一月生まれのあなたは……」
近くにあったファッション誌の表紙を見つめ、足元のロングブーツを眺める。
茶色い革製で、十センチのヒールがあり、脇にチャックが付いている。
私が連想していた物と、写真のそれは、ヒールの高さも色合いも異なっていた。
そうだ。
本当は、こんなブーツ持っていない。
母が、この写真を見ながら事細かに説明してくれて、それを気に入った私の脳が、勝手に造り出していたのだ。