アンバートリップ
「さてと。この雑誌はこれで終わりね。次は朝刊」
棚に乗せていた朝刊を再び取り、新聞名と今日の日付を読み上げる。
彼女の右手の人差し指と親指の先は、印刷物のインクが染みついて黒ずんだ紫色をしていた。
「……」
私の数年間の知識は、こうして母の毎日何時間にも及ぶ朗読によって育まれていたのだ。
コンコン。
乾いたノック音が聞こえた。
「は~い、どうぞ~」
母が「きっと美紀ちゃんね」とベッドの上に呼びかける。