アンバートリップ
『結奈ちゃん、今日から私たち、中学生よ。でね、部活必ず入る規則みたいなの。だから美術部にするわ。文化部はわりとすぐ帰れるみたいだから、お見舞いに来やすいでしょ?』


『結奈ちゃん、私、高野ヶ原女子高校を受験しようと思うんだけど……成績ギリギリみたい。受かるかな』


『結奈ちゃん、今日高校でね、真紀ちゃんがすっごい可笑しくて……』


『結奈ちゃん、専門学校ってオシャレな子が多いらしいの。どうしよう。服買わないと。色々雑誌買って来たんだけど、この薄手のジャケットどうかな? ええと、色は白っぽいグレーで……』


『結奈ちゃん、私、好きな人が出来たの。同じサークルの人でね、ちょっとクマっぽいんだけど……』


『結奈ちゃん』


 結奈ちゃん、結奈ちゃん、結奈ちゃん。





「私の思い出は……全部あの子の……」




 呆然と、美紀と名乗る背の高い女性を見つめる。




 茶色く染めた長い巻き毛を両肩の少し下まで垂らし、薄めのシャドウを施した唇のぷっくり厚い女性。

 雰囲気美人、とでも言うのだろうか? 

 顔は派手ではないけれど、オシャレで、バランスがいい。




 ただ一点、彼女の持っている大きめのバッグで踊るキーホルダーを除いては。






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