アンバートリップ
しばらくして珀がふわっと笑い、逆に私が眉を寄せた。
「普通がないなんて、変なこと言うね。それって普通の解答じゃないよ」
珀は「そうかな~」と呟いて私の隣まで戻ると、拾ったどんぐりを全て私の手の中のそれと合わせてしまった。
「あ~、どっちが勝ったか分かんなくなっちゃったじゃん」
むくれる私に「結奈の勝ちだよ」と琥珀色の瞳をキラキラさせて、珀が笑う。
スポーツも勉強も万能な珀は、なのに勝負事を好まなかった。それに、物事を白か黒かで判断もしなかった。
私が白に見えるものを、珀は女郎花色とか、卯の花色とか、あるいは百六色と表現し、私が黒に見えるものを、萌木色とか、えびぞめ色とか、あるいは山鳩色と表現する。珀は、そんな子供だった。
普通なんてこの世にないと言った珀は、当時、同じ年齢のどんな子供よりずっとずっと大人びていた。
もしかしたら珀はその時既に、何かを理解していたのかもしれない。