アンバートリップ

 しばらくして珀がふわっと笑い、逆に私が眉を寄せた。


「普通がないなんて、変なこと言うね。それって普通の解答じゃないよ」

 珀は「そうかな~」と呟いて私の隣まで戻ると、拾ったどんぐりを全て私の手の中のそれと合わせてしまった。


「あ~、どっちが勝ったか分かんなくなっちゃったじゃん」

 むくれる私に「結奈の勝ちだよ」と琥珀色の瞳をキラキラさせて、珀が笑う。



 スポーツも勉強も万能な珀は、なのに勝負事を好まなかった。それに、物事を白か黒かで判断もしなかった。


 私が白に見えるものを、珀は女郎花色とか、卯の花色とか、あるいは百六色と表現し、私が黒に見えるものを、萌木色とか、えびぞめ色とか、あるいは山鳩色と表現する。珀は、そんな子供だった。


 普通なんてこの世にないと言った珀は、当時、同じ年齢のどんな子供よりずっとずっと大人びていた。






 もしかしたら珀はその時既に、何かを理解していたのかもしれない。






< 40 / 238 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop