アンバートリップ
緑色だったどんぐりも茶色く熟した十月。私は、史上最悪の誕生日を迎えようとしていた。
「今日じゃなきゃ、意味ないじゃない!」
同じフレーズを叫び続ける私を無視して、母は三面鏡に向かい、熱心にピアスを選んでいた。
彼女はスパンコールのワンピースにラメの光るショールを羽織っていて、主役のはずの私より、はるかに着飾っていた。
「仕方ないでしょ。お友達の結婚式と重なってしまったのよ。お母さんの大切なお友達なの。結奈の誕生日は毎年あるけれど、結婚式は一生に一度あるかないかなのよ」
「だけど」
「今朝、お父さんに頼んで、帰りにケーキを買ってきて貰うようにしたから」
「そんなの! お義父さんが帰ってくるのはいつも十時過ぎじゃない!! 誕生日が終わっちゃう」
「だから、明日しっかりしたのをやってあげるって、何度も言ったでしょう」
鏡に映る母がうんざりした表情を見せ、私は更にいきり立つ。
「十歳の誕生日は今日だけだよ! 今日じゃなきゃ意味がない!」
聞き分けないわね! と、鏡の端を叩いて、母が声を荒げた。