アンバートリップ

 上気した私は怒りに任せ、わざと足音をだんだん響かせて家を飛び出した。


『片親でも、どんなに忙しくても、結奈の誕生日は必ず一緒に、盛大にお祝いをしましょうね』

(毎年そう言っていたのは、お母さんなのに)


 涙をぐっとこらえ、それでも辛抱強く、私は家の小さな庭に潜んで母の様子を伺っていた。


(今、そのことを思い出してくれたら、まだ許してあげるよ)

 身体を丸めて、心で叫んだ。

(今、慌てて外に出て「ごめんね」って言ってくれたら、許してあげる)



(……謝らなくてもいいから、私を探すだけでもいい。そしたら、誕生日のお祝いも明日でいいことにする)


(早くしないと、行っちゃうよ)


 両手をギュッと握りしめ、しゃがみ込んだ私の耳に、「きゃっきゃ」と近所の子供たちのはしゃぎ声が、やけに大きく響いていた。



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