アンバートリップ

「えっと、じいちゃんがね、『君の身体は、半分日本人で出来ている。ならば日本人の心も養うべきだ』って言って、水戸黄門を教材に選んだんだよ」

「ふうん」

「それでね、じいちゃんが『主人公の水戸黄門は、実在した日本人の徳川家康という人で、イギリスでいう所の王侯貴族であり、彼が最後に突き出す、モンドコロのマークは、三猿という名前なのだよ』って教えてくれたんだ」

「なるほど~」

 水戸黄門を一度も見たことがなかった私は、珀のおじいさんの目に余る間違いに気付くことなく、腕組みをして偉そうに頷いた。



「でも日本に来て三猿を辞書で調べたら、結奈も知っている通り、全然違うものだった」

 内心(え、そうなの?)と焦りながら「まあね、それで?」と何気なさを装う。


 珀はこっくり頷き、説明を続けた。

「三猿とは、目を押さえている猿の見ザル、耳を押さえている猿の聞かザル、口を押さえている猿の言わザル、の、三つの猿の事を言うのです」

「へぇ~」



 思わず感嘆した私は、アッと言わザルのように口を塞いだ。

 珀はそんな私を楽しそうに眺め「そういう顔の猿ちょうだい」と笑った。






 その安請け合いが、後に悲惨な過去を生むなんて、その時は思いもしなかった。






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