アンバートリップ
「本当に、大丈夫?」

 傍らで上を向く珀に、私は何度も呼びかけた。


 私の鼻血の経験と言えば、幼稚園の頃、混雑する滑り台を無理やり滑って前の子の背中に鼻をぶつけた時だけだったから、何の衝撃も無しに鼻血を流した珀が心配でたまらなかった。



 珀は詰めていたティッシュをそっと抜き取り、ゆっくり顎を戻してから笑った。

「ほら、もう止まった」



 手にしたティッシュは、珀のねっとりした血液で染まっていて、背筋がスッと冷たくなった。




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