アンバートリップ
私はその時、ただただ珀に同情していた。
母は私と二人暮らしをしていた頃、私がちょっと熱を出したり擦りむいただけで、すぐに「病院、病院」と騒ぐ人だったから、それが今度は珀に向けられて、勝手にキーキー騒いでいるのだとうんざりしていたのだ。
(珀が帰ってきたら、何をして遊ぼうかな)
皮をむいたミカンを隣に置き、寝っころがってテレビゲームをやりながら、私は珀が戻るのをのんびり待っていた。
けれどその日、珀は戻って来なかった。