アンバートリップ

 私はその時、ただただ珀に同情していた。

 
 母は私と二人暮らしをしていた頃、私がちょっと熱を出したり擦りむいただけで、すぐに「病院、病院」と騒ぐ人だったから、それが今度は珀に向けられて、勝手にキーキー騒いでいるのだとうんざりしていたのだ。


(珀が帰ってきたら、何をして遊ぼうかな)

 皮をむいたミカンを隣に置き、寝っころがってテレビゲームをやりながら、私は珀が戻るのをのんびり待っていた。






 けれどその日、珀は戻って来なかった。






< 86 / 238 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop