あの日、あの夜、プールサイドで


小さな手のひら
紅葉みたいに小さい寧々の手をギュッと握ると


「にいちゃ、だいすき…。」


「わかってる。わかってるから喋るな。
兄ちゃんも寧々が好きだよ。大好きで大好きでたまらない。」


寧々の手を握りしめたまま。
アイツが不安にならないようにニッコリ笑いながら素直にそんな言葉を口にする。


寧々の手を握って
小さなアイツのカラダを誰より大事に包んでいると



「寧々…コウにいちゃんのね??
およめさんになりたかったよ…??」


消え入りそうな声で
苦しそうな声で
瞳から大粒の涙を流しながら、寧々が俺に訴える。



その向こうでは


「コウちゃん!!
私、園長先生と救急車を誘導してくるから!!そこで寧々ちゃんと待っててね!!!」


静枝さんに電話を終えた真彩が俺に大きく何かを叫ぶ。



真彩には悪いと思う。
だけどあの時、俺は真彩の声は何一つ響いていなかった。



響いていたのは…
寧々の声だけ。



“お嫁さんになりたかった”という寧々の声だけ。



「なりたかった、じゃないだろ??
寧々は俺のお嫁さんになるんだろ??バカなこというな。」



どうして過去形なんだ?
どうしてそんなさみしい言葉を口にする??



寧々は大きくなったら俺と結婚するんだろ??
そう言ってたじゃないか、寧々。


楽しいことはこの先いっぱいある。
未来だってこの手のひらにいっぱいいっぱい掴んでる。


今は悲しいことが多くても、寧々はこれからいっぱい愛されて、大事にされて、たくさんの笑顔に囲まれる。


寧々の未来は明るいままだ。


なのに……
なのになんで今、そんな悲しいことを言いだすんだよ!!


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