あの日、あの夜、プールサイドで
なのに静枝さんはこんな言葉を口にする。
「それで…ね?
お母さんは寧々ちゃんと一緒に暮らすことを強く強く望んでいるんですって。」
「……え!?」
「今すぐは無理だけど生活の基盤ができて状況が落ち着いたら…寧々ちゃんは愛児園からサヨナラするかもしれないわ。」
その言葉に
俺の頭の中は真っ白になる。
薬事法っていっても
早い話が覚醒剤取り締まり法違反
片親だけならまだしも
寧々と暮らしたがってる、その母親だって覚醒剤の常用者だったんだぞ?!
そんな曰く付きの母親のところに渡したところで、寧々が幸せになれないのは目に見えてる。
「俺はイヤだ!
寧々は絶対に渡さない!!」
コウにいちゃんと呼ぶ
あのかわいい小さな生き物
ひたむきな目で
無償の愛で俺を求める、あの瞳
誰よりも大切に
誰よりも幸せになってほしい、大切な俺の妹。
そんな寧々をどうして、そんな母親に渡せると思う!!?
必死の思いで静枝さんに訴えると
「でも…母親が立ち直るためには子供が必要、という判断を下されてしまったら。私たちは寧々ちゃんをお母さまに返すしか手立てはなくなる。
寧々ちゃんはね?あくまでも“保護”なの。
家族で暮らせる基盤ができたら、お渡しするしかないのよ?」
静枝さんは冷静に
寧々の置かれている状況を語り始める。