あの日、あの夜、プールサイドで


悲しくて

こんなことを言う寧々が堪らなく淋しくて、小さな小さな寧々のカラダをギュッとギュッと抱きしめる。



遠くで救急車のサイレンが聞こえる。

それに愛児園の奴らの“寧々”と叫ぶ声も。


気づいたら…
俺は泣いていた。


寧々のカラダを抱きしめながら俺はただひたすらに泣いていた。



「う…ふぅっ…!!」


嗚咽を上げて泣く俺を
不思議そうに寧々が見上げる。


涙は土ではなく、寧々の頬に落ちていく。


とめどなく溢れる涙
こぼれる雫



寧々は俺の瞳に向かってゆっくりと腕を上げて、その小さな小さな手で俺の涙を拭きとると


「にいちゃ…だいすき。
だいすき…。」



そう言ってニッコリと力なくほほ笑む。



その笑顔に癒されて
その笑顔に救われて。


俺がこんなんじゃいけない、とココロを奮い立たせて。腕で強引に涙を拭きとると



「寧々!?
寧々!!寧々ーーーーっ!!!!」



寧々は俺の腕の中でガックリと力を失い、ゆっくりと瞳を閉じた。




「寧々ちゃん!!」

「光太郎!!?」



静枝さんと真彩が俺たちの近くに来た時には、寧々のカラダはどんどん冷たくなっていて。


もう何を語りかけても
どこを触っても


その小さな瞳を開けることは決してなかった。


決して……なかった――……。


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