あの日、あの夜、プールサイドで

静枝さんはさ??気にしなくていいって言ってくれるけど……俺が気にする。


愛児園の経営だって楽じゃない。


施設の維持費にアイツらの食費に
職員への月々の給料。


国や地方自治体から援助があるとは言っても微々たるもので、毎月毎月静枝さんは自分の身銭を切って俺たちに美味しい食べ物やキレイな洋服を買ってくれてること、息子である俺が一番よく知ってるんだ。

だから…
俺の勝手なワガママで静江さんを困らせたくない。
苦しませたくない。


残念だけど、今回は諦めるしかない……よな。



そう思って
SGスイミングスクールの要項を月原に突き返すと


「キラ。金は全額免除でいいってよ。」


ニンマリ笑いながら、月原は腕組みをして俺を見る。


まるでその手は“何があってもそれは受け取らない”とでも言っているようで、俺の動きは完全にフリーズしてしまった。


――え…??


全額免除??
これだけ高額の月謝を免除って…ありえなくないか??


思考も動きも固まったまま
ただ月原を見つめていると


「SGのオーナーは人情家でな。
この話が来た時には一回断ったんだけど……。オマエの生い立ちやら、生活環境やらを話したら、涙ながらに月謝全額免除の条件を出してくれたぞ。」


そう言って。月原は悪い悪い、悪い大人の顔をしてニンマリほほ笑む。



――コイツ…!!


その笑顔にピンときた俺。



「オマエ…最初からそのつもりでオーナーに話したんだろ。」


「は??何が??」


「何が?じゃねーよ。
人のいいSGスイミングスクールのオーナーをハメるつもりで俺の生い立ち話したんだろ。」



でなきゃ、こんな場面で聞くだけでブルー入るような俺の人生を語るハズないじゃないか!!


人のプライバシーを軽々と侵害しやがって!!



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