あの日、あの夜、プールサイドで


冷たい目

俺なんかよりもずっと不幸のどん底を知ってるその冷めきった目


その瞳を目の当たりにして、俺は思わずグッと息を詰まらせる。



「利用できるモンは利用しろ。金でもチャンスでも、友だちでも何でもだ。」

「…え……??」

「教えてやるよ、キラ。
俺たちの武器は自分の身一つなんだよ。
誇りだとかプライドだとか見えもしねぇ、食えもしねぇモンを振りかざして、目の前にあるチャンスをみすみす潰したりすんな。」



悪気も正義も何もなく
月原は俺に向かってそう言い切る。



「信用できるのは自分だけ。
大切な何かを守りたければ強くなれ、キラ。」



大切な何か



そう言われて一番に思い出すのは、寧々のコト。




俺がオトナだったら
もっと強い力を持ってたら
社会的地位のあるヤツだったら


俺はきっと寧々を守りきれたに違いない。


寧々が天使になってしまった後も、俺は何度も何度も考えた。


どうやったら寧々を死なせずにすんだのか、を。




でも、どうやったって行き着くのは同じ答え。

俺が力のない子供だったから。
寧々を育てきれるほどのお金も力も何もこの手に持っていない、ただのクソガキだったから。

だから俺は寧々を守りきることができなかったんだ。



耳ざとい月原が…さ??
あの事件を知らないはずがない。


あの事件はニュースにも大きく取り上げられて、寧々も光の子愛児園も、いろんなものが世間の目に晒されて、注目されてしまったのだから。



月原が言っている“大切な何か”は、確実に寧々のコトを言っているんだと思う。


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