あの日、あの夜、プールサイドで
家に帰って、静枝さんに相談をすると
「迷う必要なんてないでしょう?」
「……え??」
「月原先生のお誘いに従いなさい。
神様からプレゼントされた才能を磨くべきですよ、光太郎。」
そう言って、静枝さんはニッコリとほほ笑んだ。
夕ご飯後の園長室。
質素な机で書き物をしていた手をピタリと止めると、静枝さんはそっと机に置かれた一枚の写真に目をやる。
そこに写っていたのは満面の笑みを浮かべる寧々と、寧々を抱きしめ満足そうに笑っている俺。
それは寧々と俺、二人で撮った最後の写真だった。
愛おしそうに、その写真を見つめて寧々の顔を指で撫でると
「寧々ちゃんも…きっと喜びます。」
「…え??」
「寧々ちゃんにとって光太郎は自慢のお兄ちゃんでした。光太郎が今以上に輝き、切磋琢磨している姿を見られたなら、彼女は何より嬉しいはずです。」
そう言って静枝さんは俺に向かってニッコリとほほ笑む。
「そう…かな。」
「そうですよ。
きっと彼女が生きてたらみんなに自慢して回ったと思いますよ?“寧々のコウ兄ちゃんはすごいんだから~っ!!”ってね。」
いつも冷静な静枝さんがマネした寧々の真似がすごく似ていて。思わずブブッと笑うと
「私のこと、愛児園のこと、お金のことは考えてはいけません。髪の毛一本ほども考えてはいけません。」
「…静枝さん……。」
「いいですか?光太郎。
大切なのはやりたいか、やりたくないか、ただそれだけです。この件に関しては……私はあなたの意志に従います。」
静枝さんはマジメな顔をして俺の両目をジッと見つめる。