あの日、あの夜、プールサイドで
優しくて穏やかで
俺の全てを包み込んでくれる、大好きな静枝さんの瞳。
きっとこの人は俺がバカでも不良でも優等生でも利口でも、俺の全部を好きでいてくれる、唯一の人だと思う。
大好きな静枝さん
大切な俺のたった一人のお母さん
それはわかってる。
痛いほどわかってる。
俺はこの人が大好きだし、生まれたばかりの俺を捨ててしまうようなろくでもない母親に育てられなくて、本当によかったと思う。
だけど……
好きだからこそ、甘えられない。
好きだから、大切だから
迷惑をかけたくない。
「……俺は……この話を受けようと思う。
無償で泳がせて貰えるなんて夢みたいな話だし、カネがかからないなら静枝さんに迷惑かけることもないしさ??」
俺はこの時、自分に自分で誓いを立てた。
SGが俺の力を信じてくれて無償でレッスンを受けさせてくれる内は、頑張って続けていく。
だけど……
見限られて月謝を取られるようなハメになった時には、俺はアッサリ辞めてやる。
全国レベルのヤツと対等に泳いで、最終的には“あの”藤堂響弥と闘えるような選手になるにはさ??こんなところで見限られるようじゃ、先が知れてる。
ダメなら辞める。
だけど可能性がある限りは、何が何でもその場にしがみついて、血反吐を吐いてでも強くなる。
ギュッと両手を握りしめて
「俺、頑張るよ。
静枝さんや真彩。それに寧々に愛児園の奴らの“自慢の兄ちゃん”になれるように。」
決意を秘めた瞳で、決意を告げると
「何言ってるんですか。
あなたはもう既にみんなの誇りですよ。
私の自慢の息子です。」
静枝さんは少しさみしそうに微笑んで、俺の頭をヨシヨシと撫でる。