あの日、あの夜、プールサイドで
藤堂響弥は俺の憧れであり、超えるべき最大の目標。
藤堂と対等に戦うためだけに競泳漬けの毎日を過ごす、俺。
朝、学校に行く前にSGで泳いで、学校が終わったら速攻でSGに向かって。そのまま4時間泳ぎ続ける。そして愛児園に帰ってご飯を食べて、風呂に入って、泥のように布団で眠る。
そんな毎日がもう何年も続いている。
当然のことながら真彩とゆっくり2人で過ごす時間なんて全くなくて、夕食の時や朝食の時に話を交わす程度。
悪いなぁ…
俺、こんなことしてたら捨てられるかも…。
とか不安にもなるけれど
「大丈夫。コウちゃんの夢は私の夢でもあるんだもん。気にせずに、頑張って??」
って、言ってくれるモンだから……。
俺はその優しさに甘えて、恋人らしいことは何一つしてやることができずに、ひたすら競泳漬けの日々を過ごしている。
二つ年上の真彩は今、高校三年生。
来年は高校も卒業するけど、愛児園も卒業だ。
愛児園にいられる時間は18才まで。
高校を卒業したら一人前の大人として社会に出て働くというのが、決められたルールでもある。
真彩は優しいし、チビ達から人気もあるし
「このまま職員として愛児園で働きませんか??」
静枝さんはそう言って、真彩を誘ったけれど
「ごめんなさい、園長先生。
私には夢があるので、ここで働くことはできません。」
真彩はキッパリとその申し出を突っぱねた。