あの日、あの夜、プールサイドで
真っ暗な部屋の中にゆっくりと入っていくと、小さな布団の真ん中で寧々が小さな吐息をたててスヤスヤと眠っている。
そっとその寝息のほうへと歩いて行って、腰を落として。寧々の小さな手のひらに人差し指をチョンっと置くと
「ん…、コウにいちゃ……。」
寧々はモゴモゴ何かを呟きながら、俺の人差し指をギュウッと握る。
――カワイイ。
カワイイ、寧々。
寧々のおむつを替えたのは俺なんだぞ?
コイツがおねしょした時
布団を洗って干してやったのも俺なんだ。
嫌いだというピーマンを食べれるようにさせたのも、大好きなプリンをいっぱい買ってやったのも、全部全部俺なんだ。
真彩に教えてもらいながら
毎朝、寧々の髪だって結んでやってた。
かわいい、寧々
誰より大切で、誰よりも愛しい、俺の妹
――渡したくない。
あんな母親なんかに渡したくない。
寧々は俺の妹だ。
俺の大事な妹なんだ。
自分の身に巻き起こる
大きな事件なんて気づきもせずに、スヤスヤと眠る寧々。天使みたいにカワイイ寧々。
そんな寧々の顔を見ていたら堪らなくなって
「う…ふぅっ……。」
俺は寧々の顔を見ながら
切なすぎて泣いてしまった。
悲しいんじゃない
寂しいんじゃない
いつかこんな日が来るのはわかっていたけど、それがこんなに急にやってくるなんて思いもしなかったんだ。