あの日、あの夜、プールサイドで


真彩は高校を卒業したら大きな総合病院でナースとして働きながら、正看護師を目指すという。


『私は……あの時寧々ちゃんの命を守ってあげられなかったから……。』


消え入りそうな小さな声で呟いた、あの真彩の表情を俺は忘れることができない。


きっと真彩なりの償いのつもりなんだと思う。


あのとき水筒を忘れなければ。

あのとき私に医学の知識があれば

もっと私が大人だったなら。


寧々が亡くなった後
真彩はそう言って、何度も何度も自分を責めた。俺が自分の力のなさにムカついて、絶望していたのと同じように。


俺は寧々の分も精一杯生きて、寧々が天国で喜んでくれるように競泳を頑張ろうって決めたけど……。

真彩はきっと命を守る仕事に自分が携わることで、寧々の死を乗り越えようとしてるんだと思う。



その決意を聞いた後


「わかりました。
あなたが精一杯生きることこそ、寧々ちゃんが望むこと。生きたいように生きなさい?真彩……。」


そう言って
静枝さんは真彩をギュッと抱きしめた。




真彩の卒業は3月末日。
4月からは病院の近くにアパートを借りる手筈になっているから、一緒にいられるのはあと少ししかない。


< 130 / 307 >

この作品をシェア

pagetop