あの日、あの夜、プールサイドで
なのに俺はと言えば、相変わらずの競泳漬けの日々で真彩と甘い時間なんて過ごせるはずもなく、ただ変わらぬ毎日が過ぎていくだけ。


起きて、泳いで
食って、寝ての繰り返し。



そんな俺たちを見て

「コウちゃん、こんなことばっかしてたらマジで真彩に捨てられるぞ??」

ある日の夜
愛児園のベッドでうとうとしていたら、同室のジュンにそう声をかけられた。


「……え??」


「真彩とコウちゃんって落ち着きすぎてて、縁側にいる老夫婦みたいだぞ?!」



縁側の老夫婦……??



「普通はさー。
もっとラブラブするもんなんじゃねーの?彼氏と彼女って。もっと一緒にいたい、とか、もっと触れたい、とか、相手の全部を独占したい、とか……コウちゃんにはないのか??」


俺の方へ体を向けながら、呆れたようにたずねるジュン。



もっと触れたい

もっと近づきたい



そんな思春期にありがちな欲求は、健全な男子高校生の俺にもないはずなんてなくて。
真彩と二人でいるたびに下半身から熱い何かがグゥッと苦しいほどに駆け昇ってきて、時おり俺をおかしくさせる。



好きなら当たり前のこと。

触れたいと思うのも、独占したいと思うのも当然のことだと思う。


そんな自分を恥じてもいないし、抑圧してるつもりもないけど……


「俺ばっかりが幸せでいいのかなって思う。」

「……え??」

「寧々は……そういう当たり前の幸せすら知らないまま旅立ったのに……って……思う。」


いつもいつも、最後の最後で、俺は寧々を思い出す。

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