あの日、あの夜、プールサイドで


俺の天使で、俺の心のヒマワリだった、大事な大事な妹、松浦寧々。


たった5歳という幼さで、理不尽すぎる理由でその小さな命を実の父親に奪われた、寧々。



変…だよな??
泳いでる間は『きっと寧々は喜んでくれる』と思えるクセに、恋愛沙汰になると躊躇する。



『寧々、コウ兄ちゃんのお嫁さんになる~!!』



が口癖だった、寧々。



真彩とそういう甘い雰囲気になるたびに、俺はあの寧々の笑顔を思い出す。


そして……それと同時にあの涙を思い出す。



『にいちゃ、ごめんね』


『にいちゃ…だいすき。
だいすき…。』



最後の最後で
俺に伝えてくれた、寧々の最後の言葉が俺の胸に突き刺さる。




「なんか……さ??
寧々に悪い気がするんだよ。」


「…は??」


「アイツ、言いそうじゃない??
寧々のコトは幸せにしてくれなかったのに、マーヤだけずるい!!って。」




そう言って俺は自分の首から下げた小さなお守り袋にそっと目をやる。




真彩がこっそり作ってくれたこのお守り袋の中には、お葬式の日にこっそり盗んだ寧々の小さなお骨がひとかけらだけ入ってる。


俺と寧々を繋ぐ、最後のカケラ。




――寧々……




カラダは近くにいなくても
ココロはいつも繋がってる。


俺はいつもアイツの笑顔と共にある。


真彩は俺にとって大好きな人で、とても魅力的な人で、一緒にいるだけでドキドキする、そんな存在だけど……。


俺にとっての寧々はそれ以上に大切で、特別で、代わりのいない、かけがえのない、大切な宝物だった。



だからこそ、苦しいんだ。
俺は寧々を裏切れない。


真彩に対してそういう感情が沸き起こるたび、俺はいつもこう思う。



――寧々に悪い……



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