あの日、あの夜、プールサイドで
いつも穏やかで、俺がどんなにほったらかしにしてもニコニコ笑って俺のワガママを許してくれる、真彩の見せた初めての不満げな顔。
「家族だけど、家族じゃないよ。
真彩は俺にとって家族と同じくらい大切な人だもん。」
彼女の見せた初めての表情に驚きながら、必死に冷静を保ってそんな言葉を口にすると
「……だから…、私に何もしてくれないの??」
真彩はキュッと唇を噛んで俯きながら、苦しそうに訴える。
な、なにもしてくれない!?
な、なんだよ、それ!!
それは付き合ってるのにデートもしてくれないっていう不満??それとも…そういうエッチな意味で…??
いつも穏やかな真彩の顔がどんどん曇る。
玲奈ちゃんとか、その他大勢の女の子なら、こんな顔見せられても焦りもしなければ驚きもしないんだけど、相手が真彩だと思考が止まる。
どうしていいのかわかんなくて、ただ焦る。
「コウちゃん……SGで女の子に言い寄られてるんでしょ??」
「え、えぇ!!?」
な、なんで知ってんだよ!!
俺、玲奈ちゃんのコトなんて一言も言ったことないのに、なんで真彩が知ってるんだよ!!
「その子のこと気になってる??
だから私に何にもしてくれないの??」
今にも泣き出しそうな真彩の顔。
大きな目からは透明の雫が今にもポタリと落ちそうで。そんな彼女を見たのは初めてで驚いて
「玲奈ちゃんは全然タイプじゃないし、興味もないよ!!俺が大事にしたいのも大切に想ってるのも真彩だけ。好きなのも、好きになってほしいと思ってるのも真彩だけだってば!!」
ワタワタ挙動不審に動きながら必死に弁明をしていると
「じゃぁ…なんでキスしかしてくれないの??」
真彩は意を決したように顔を上げて、まっすぐに俺を見る。