あの日、あの夜、プールサイドで
――え……??
「私…好きなら当たり前のことだと思う。
相手の心も体も欲しいと思うのって当たり前だと思う。だけど……コウちゃんは絶対にそれ以上のコトをしようとしないでしょ??」
真彩が見せた、初めてのホンキの顔。
お母さんみたいな真彩じゃなく
家族みたいな真彩でもない
真彩が初めて俺に見せたオンナの表情。
「なんか……寂しい。
求められすぎても困るけど……求められなさすぎても不安になるよ。
そういう風に見られてないのかな、って。」
ホントなら嬉しがる場面なんだと思う。
ここまで言ってもらえたら、男冥利に尽きるというか、すごく幸せなことだと思う。
わかってる。
それは十分わかってるのに
「いや……。
抱かないからって言って俺が真彩を求めてない理由にはならないでしょ……。」
俺は嬉しいよりも、幸せを噛み締めるよりも、何よりも困っていた。
なんでだかはわかんない。
わからないけど、さっきまでのフワフワした温かい気持ちはどこかに泡のように消え去って。代わりに俺の心を支配したのは真冬の吹雪のような冷めた感情。
目の前にいるオンナの目をした真彩から、目を背けたくて仕方ない。
「俺は、そういう愛の確かめかたって好きじゃない。抱いたからって、SEXしたからって言って、何がどう変わるって言うの?
俺には真彩だけ。その言葉が信じられない??」
「そ、それは……そう……だけど……。」
「じゃあいいじゃん。
俺……真彩が大事だからそういうことはしたくないし、する気もない。」
気がつくと
俺は真彩に向かってこんな冷たい鬼のような一言を言い放っていた。