あの日、あの夜、プールサイドで
この施設で育って。物心のついたときから隣にいる真彩が見せた、初めての醜い表情。
初めて見せた真彩の本音に何も言えずに固まっていると
「……私……ほんとはずっと不安なんだよ。」
「え……??」
「コウちゃんに呆れられたくなくて、嫌われたくなくて、必死に本音を隠してたけど…。ほんとの私は醜くて、心も狭くて、不安でいっぱいなの。」
そう言って、真彩は大きな瞳から大粒の涙をこぼした。
頬を伝う涙を拭うこともせず、真っ直ぐに俺を見据えて
「コウちゃんの本音が知りたいよ……。」
真彩は決意したように、ポツリと呟く。
いつも穏やかで、優しくて
日だまりのように俺を包んでくれていた、真彩。
きっとその真彩は嘘ではなくて、あれも真彩なんだけど……。
きっと目の前にいる、このオンナの皮をかぶった真彩も間違いなく真彩なんだ。
――ジュン……、ホントだな。
大丈夫だと思ってたのは俺だけで、安心しきってたのも俺だけで、真彩はずっと悩んでたんだな。
きっとカンのいいアイツのコトだから、俺たちの間にある“歪み”みたいなものに気づいて、忠告してくれてたのかもしれない。
なのにバカな俺は真彩の隠れた本心にも気づかず、ジュンのくれた危険を知らせるシグナルにも気づかずに毎日を自分勝手に過ごしてた。
――その報い……なのかな。
自分勝手に自分の夢だけを追っていて
“大丈夫”という真彩の言葉を鵜呑みにしてレナちゃんのコトも言わず、彼氏らしいこともしてやらなかった。
だから……真彩に愛想をつかされても仕方ないのかもしれない。