あの日、あの夜、プールサイドで
夕飯のコロッケを掴んでいた箸を箸置きに戻してハァと大きくため息を吐くと
「俺は好きだよ。
真彩のコト、ちゃんと女の子として好きだよ。」
「……」
「ごめん……。
俺、バカだから気づかなかった。真彩がこんなに苦しんでるなんて知らなかった。」
そう呟くと、真彩は大粒の涙をテーブルの上にポトリと落とした。
「でも、わかって欲しい。
ちゃんと好きだよ。
俺、真彩のコト……すごくすごく好きなんだ。」
テーブルに置かれた真彩の手の上に自分の手のひらを重ねて、どうか俺の気持ちが届きますように、と祈りを込める。
真彩への気持ちは上手く言葉に現せない。
恋なのか
愛なのか
家族なのか
友達なのか
恋人なのか
複雑すぎて言葉にするのが難しい。
いや、違うな。
一つに絞るのが難しいんだ。
家族であり
友達であり
恋人であり
俺が恋をして
愛しているのは真彩。
簡単でありふれた、言葉。
そのすべてに真彩は当てはまってしまうから。俺にとっての真彩を言葉で表現するコトは、雲を掴むのと同じくらいに難しい。
「真彩は……俺にとって全部だから。」
「……どういう……こと……??」
「俺の生きる意味、俺の存在する価値、俺の還る場所、俺の情熱。真彩は…俺の全部なんだ。
恋してるとか、愛してるとか、そんな簡単で安っぽい言葉なんかじゃ、この気持ちは言い表せない。」