あの日、あの夜、プールサイドで
そう告げると真彩は何も言わずに、押し黙る。
俺も何も言うことができずに、どれくらいの時間が流れただろう。
流し台のシンクに落ちる、小さな水音。換気扇の音に、ほのかに聞こえる談話室の話し声。
お互いにうつむいたまんま、手を握りあっていると
「わかった……。」
そう言って、真彩がゆらりと立ち上がる。
そして一度も俺を振り返ることなく、食堂のドアに向かって歩いていって
「私を捕まえても、逃がしてもくれないコウちゃんは……ほんとに酷いオトコだね……。」
何かを小さく呟くと
悲しそうな背中だけを見せて、その場を後にしたのだった――……