あの日、あの夜、プールサイドで


妬ましかった。

憎らしかった。


なんの疑問もなく真彩を好きだと言えるジュンが眩しくて、羨ましくて、俺はギタキタに傷つけばいいと心底思った。


ジュンをめちゃめちゃにしてやりたい。
めちゃめちゃに傷つけてしまいたい。



そんな気持ちに駆られて。俺はアイツが傷つくであろう言葉をわざと選んで、アイツの優しい心を抉(エグ)る。



「俺を卑怯者って言ったけどさぁ??
ジュンだって同類じゃね??」

「コウちゃん…」


「俺のことたっぷり説教してくれたけどさーぁ??」


「………。」


「真彩に下心満載のクセに、よく偉そうに説教できたよねぇ??そういうの何ていうか知ってる~??“偽善者”……って言うんだよ、ジュン。」



俺が口を開くたび、ジュンの顔がどんどん歪む。
苦しそうに、ツラそうに眉を歪めるたびに、俺はぞくぞくするほどの満足感を得てしまう。




――やっぱ…ダメだ。


どんなに取り繕っても、どんなに隠そうとしても…これがきっと俺なんだ。


ゴメンな、寧々。
オマエの憧れる、オマエがずっと好きでいてくれる、そんな兄ちゃんになろうとしてたけど。そんな自分でありたいと願っていたけれど…俺の本質はやっぱりどこか歪んでる。



どんなに静枝さんが愛情をかけてくれても
真彩が愛をささやいてくれても
やっぱりダメだ。



俺の中には…
俺を捨てたクソみたいな両親の、腐ったDNAが根付いてる。


< 162 / 307 >

この作品をシェア

pagetop