あの日、あの夜、プールサイドで
◇彼女を癒すもの
離したくない。
別れたくない。
寧々は天使だから
俺の小さな小さな天使だから
奪われたくない。
ずっとずっと一緒にいたい――……
そう思って
腰をゆっくりと落として
「寧々…俺も好きだよ。寧々が大好きだよ。」
瞳からポロポロ涙をこぼしながら、ギュッと強く彼女を抱きしめていると
「寧々……、寧々なの?!
大きくなって……。信じられない、信じられないわ……!!」
俺の背中の向こうから
甲高い、女の声がする。
カンにさわる高い声
俺から寧々を奪う、憎い声
渡したくなくて
寧々を絶対に渡したくなくて、彼女の体を今以上に強い力で抱きしめていると
「……え??……」
寧々は俺の腕の中で混乱の一言を漏らす。
無理もない。
寧々が愛児園に引き取られたのは二歳になって間もない頃だ。
母親の記憶はうっすらとあるだけで、しっかり覚えてる訳じゃない。
だから、目の前にいるこの女が自分の母親だとは認識できず、混乱しているんだと思う。